幽霊西へ行く(日语原文)-第10章
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「人の中傷は聞きたくないね。それとも、君が、彼を犯人だと指摘するような、確証を握《にぎ》っていれば、これは別だが……」
「足どりを見たって分かるじゃありませんか。四時に、哕炇证稀ⅳⅳ闻蛐滤揆kでおろしたといいましたね。それからどこへ行ったんです。あの男のところしかないじゃありませんか」
警部の顔には、かすかな動揺《どうよう》の色が、あらわれたらしかった。相手は痙攣《けいれん》的に笑って、
「それごらんなさい。いいですか、警部さん、あの女は、自家用車を仱辘蓼铯筏皮い肷矸证扦工肌¥铯欷铯欷韦瑜Δ恕ⅴ珐‘タクのメ咯‘に、ビクビクしていなくてもすむんですぜ……それなのに、なぜ自動車をとばさずに、ラッシュで混雑している電車なんかに仱盲菩肖盲郡螭扦埂
自分の言葉に陶酔《とうすい》しているように、彼は外国|煙草《たばこ》の煙《けむり》を吐《は》き出しながら、
「その理由は知れているじゃありませんか。あの女は、自分の行き先を秘密にしたかったんですよ。あの哕炇证稀⒅魅摔酥覍gな男です。愚直《ぐちよく》ですが、一本気な、日本犬みたいな男です。出来たなら、あの女も彼をくびにしたかったでしょう。しかし、主人の方が目をかけているために、そこまで無理も出来なかった。といって、自分の行き先が知れても困る。それで電車で道行と相成ったわけですな」
相手に決して好意を持っていなかった、高島警部も、この言葉に含《ふく》まれる、一面の真理は認めずにはおられなかった。
「プラトニック?ラヴ――いい言葉ですな。詩的にひびくじゃありませんか。しかし、日本人というやつは、とにかく看板にだまされ易《やす》くってね。そんな正々堂々たる関係なら、何の恐《おそ》れるところがあります。堂々と玄関《げんかん》に自動車を横づけにしたらよろしい。警笛《けいてき》を伴奏《ばんそう》にして、隣《となり》近所にふれまわしたらよろしいですな」
傍若無人《ぼうじやくぶじん》な言葉はつづいた。
「あの女は、何かを恐れているんですよ。あの哕炇证恕⒆苑证涡肖趣蛑椁欷毪长趣蚩证欷皮い毪螭扦工琛:韦韦郡幛扦埂t明《けんめい》なる警部殿にはいわずと自らおわかりでしょう。だまされちゃいけません。あの女が上海《シヤンハイ》で、どうして生きていたか、あなたが知らないはずがありますか」
「ダンサ汀
「とんでもない。そりゃ表向きの看板だけ。あの当時の上海で、あの女ぐらいのくらしをするには、体を売るか、体をはるか、どちらかしなけりゃ、やっていけっこありませんって……麻薬《まやく》の売買で、あの女を取り眨伽郡韦稀ⅳ郡筏摔ⅳ胜郡坤盲郡扦筏绀Δ
「それが本当だったというのか」
「本当ですとも、ただその証拠《しようこ》がなかっただけ……何ならお見せしましょうか」
「領警時代の僕《ぼく》なら、喜んで拝見しただろうがね」
「警部さん……あなたは知らない。あなたはそれに気がつかなかった……だが、私は知っていたんです。しかも彼女は、天下に名をとどろかした大女優とおなり撸Г肖筏俊I鷼⒂電Z《せいさつよだつ》の権を与《あた》えられたマネ弗悌‘、私が彼女のそばを離《はな》れられなかったわけがお分かりでしょうね」
「分かるような気がするよ。ちょっと係がちがうがね」
「だが、今となっては、夢《ゆめ》去りぬ――です。日高晋もついに杢阿弥《もくあみ》になり下がりました。以上全巻の終わりですな」
「君の立場には同情するよ」
「そこで私の申しあげたいのは、この殺人によって、私の得るところは、少しもないということですな。上杉弥生あっての日高晋だから、彼女を殺す動機など、少しもないということです。まして見知らぬ男など……」
やや間をおいて、彼はするどく言い切った。
「アリバイを崩《くず》そうとなすっても無駄《むだ》ですよ。たとえこの殺人が、枺─切肖铯欷郡摔护琛岷¥切肖铯欷郡摔护琛⑺饯摔辖~対のアリバイがあるんですよ」
「どうぞご自由におひきとり下さい」
警部はつめたく挨拶《あいさつ》した。
彼が部屋《へや》を出て行くと同時に、一人の警官が、応接室へ入って来た。
「高島警部殿」
「何だね」
「お留守中に、この家へ、この方が弔問《ちようもん》においでになりました。そして、この名刺《めいし》をお帰りになったら、わたしてくれと申されました。自分はちょっと署の方へ、連絡《れんらく》に行っておりましたので、遅《おそ》くなりましたが……」
「誰《だれ》だろう」
ひくくつぶやきながら、警部はその名刺を受けとったが、見る見るうちに、その顔には喜色が浮《う》かび上がって来た。
その上の名は、
白川武彦
そしてその右肩《かた》に、万年筆で、
「蒼風閣《そうふうかく》に滞在《たいざい》しております」
としるされていた。
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蒼風閣《そうふうかく》は、魚見ケ崎《うおみがさき》の絶景にあった。車がその前にとまった時、高島警部はおやっと思った。十五|坪《つぼ》か二十坪ぐらいの、平家としか思えなかったのである。
表の戸はしまっていた。ベルをおして、来意を告げると、警部はすぐに、玄関《げんかん》から下へ案内された。
懸崖《けんがい》作りというのであろう、五階建ての建物が、崖《がけ》の斜面《しやめん》に沿って作られ、最上階の玄関から、下へ降りて行くのである。
「こちらでございます」
お手伝いは、霞山《かざん》の間と名札《なふだ》の出ている部屋《へや》の摇钉栅工蕖筏蜷_いた。
「高島君だね。入りたまえ」
十二|畳《じよう》の座敷《ざしき》の窓際に、白川武彦は坐《すわ》っていた。上海《シヤンハイ》総領事当時から、身だしなみには病的なくらいに気を使っていた彼のこと、こうして温泉に滞在《たいざい》しているときでも、端然《たんぜん》と大島の着物を着くずれもなく身につけて、静かに正座していたのだった。
「しばらくでございました。その後おかわりもございませんか」
自然と、警部は畳《たたみ》に頭をこすりつけていた。
「こちらこそ。でも、高島君、もうそんなに固くならなくてもいいじゃないか。僕《ぼく》は役人の足を洗った。野《や》にかえって、いまは一人の私人なんだよ」
白川武彦は笑っていた。広い、角ばった額《ひたい》も、男性的な太い水平な眉《まゆ》も、固く結んだ唇《くちびる》も、高島警部にはなつかしかった。
一中、一高、枺螭取⑼饨还佶畅‘スの本道を歩んで外交官試験に合格、若くして霞ケ関《かすみがせき》の偉材《いざい》といわれた白川武彦は、いまでも四十をいくつも越《こ》えてはいなかった。ロンドン大使館を振《ふ》り出しに、英米仏の三大使館勤務を次々に経歴し、中国に帰って、廈門《アモイ》の領事をつとめ、三十三|歳《さい》という若さで、風雲急を告げた上海《シヤンハイ》総領事の地位に就《つ》いたときには、誰《だれ》しも思わず眼《め》を見はって、この麒麟児《きりんじ》の前途《ぜんと》に注目したのである。
昭和十三年から二年間、緊迫感《きんぱくかん》を加えた国際都市上海で、彼は外に英米仏ソ独伊の大国を相手に廻《まわ》し、内には軍部の強圧に屈《くつ》することなく、堂々たる外交|手腕《しゆわん》を発摚Г筏俊I虾9げ烤珠Lロバ龋骏廿螗扩‘ソンは、彼を「個人的日本|駐華《ちゆうか》大使」とよんだくらいに、彼の手腕と力量に絶祝钉激膜丹蟆筏蛳А钉筏筏蓼胜盲郡韦扦ⅳ搿
これが、中国の内治外交の指導権を、一手に掌握《しようあく》しようとしていた、当時の軍部の逆鳎А钉菠辘蟆筏舜ァ钉铡筏欷胜い悉氦悉胜盲俊
有形無形の圧力は、彼を上海からマルセ妞尉t領事に追った。赫々《かつかく》たる業績を残しながら、最愛の妻に死に別れた彼は、ひとり淋《さび》しく南仏の地に去った。
大戦は勃発《ぼつぱつ》し、交換船|氷川丸《ひかわまる》で帰国し、日本の土を踏《ふ》んだ。それを最後に、彼の名は新聞紙上にあらわれることもなかった。
「長官は、いまどうしていらっしゃるんですか」
「長官はないだろう。白川さんで結構だよ」
「どうもむかしの癖《くせ》が出まして」
「弁護士をしている。友人からぜひとたのまれて、三幸商事の顧問《こもん》弁護士になっている。別に何にもしなくても、暮《く》らしには困らぬようにしてもらっているが、向こうでは、結構先物を買っているつもりだろうね」
「惜《お》しいですなあ。長……いや、あなたのようなお方を、むだに撸Г肖护皮胜螭啤⒄猡嗓Δ筏皮い蓼工胜ⅰ
「満員電車みたいなものさ。割りこもうという気がなければ、いつになったって仱欷浃筏胜い琛¥趣长恧蔷稀ⅳ长尾课荨钉丐洹筏蛑盲皮い毪省=l《このえ》?汪兆銘《おうちようめい》会見の部屋だ……命をかけて日本へわたった彼は、この部屋で初めて、近衛さんと会見したんだ。あのころには、ずいぶんいろんなことがあったねえ」
彼はむかしをなつかしむように、内海の彼方《かなた》に浮《う》かぶ、熱海の街の灯《ひ》を見つめた。
「帰りなん、いざ、田園まさに蕪《あ》れんとす……僕《ぼく》のような心境になれなかっただけ、あのお二人は気の毒だった……思えば時代も悪かったね」
「やむを得ないことだったですね」
「そういう僕だって、あの立場に立たされたら、どうなっていたか知れないが……実は、天野さんの奥《おく》さんがなくなられたと聞いて、お悔《くや》みに行ったら、君の名前が出てね、なつかしくなったから、一度あいたいと思ったんだ。よかったら、飯でもいっしょに食おうじゃないか。ここの天ぷらは有名だよ」
「はあ光栄です」
「また、そんなことをいう」
彼は笑って、ベルをおした。
「飲むだろう」
「いや、今日はいただきません。事件のことが心配で、お酒ものどには通りません」
「君らしくもない。どうせ、解決は時間の問睿坤恧Α5靡猡握场钉亭小筏辘恰⒁粴i一歩、虱《しらみ》つぶしにあたって行くさ」
「ところが、この事件というのはかわっているんです。六人の中に犯人が限定されていて、しかも全然手がかりがつかめないんです」
「六人の中に――?」
白川武彦は、初めて事件に興味を感じて来たらしかった。
「白川さん、お願いです。お智慧《ちえ》を貸していただけませんか。この事件が解けなかったら、私は濂逼帧钉摔筏Δ椤筏椁趣婴长啶瑜辘郅ⅳ辘蓼护蟆⑸茤|京には帰れません」
「思いつめるなよ。命を粗末《そまつ》にするんじゃない。いったいどんな事件だね」
高島警部は、逐一《ちくいち》もらさず、白川武彦の前に事件の内容を物語った。
その間、相手は腕《うで》を組んだまま、膝《ひざ》ひとつ崩《くず》そうとはしなかった。
「まあ飯でも食いながら話そう」
警部の話が終わったときに、白川武彦はいい出した。
「この天ぷらの油はね、浜名湖畔《はまなこはん》の伊佐見《いさみ》村からとりよせているんだそうだ、炭は天城《あまぎ》の山中で、わざわざ焼かせているという……ずいぶん凝《こ》ったまねをするね」
警部にとっては、油の話はどうでもよかった。彼は機械的に、海老《えび》を口へほうりこんだ。
「外交は詭弁《きべん》なり――マキャヴェリは、するどいところをついているね。僕《ぼく》には、その詭弁を弄《ろう》することが、どうしても出来なかった。生まれつきで、どうにも仕方のないことだが、それが僕《ぼく》の外交界から退いた動機でもあった。ただ、僕は自衛のために、その詭弁《きべん》を見やぶる力だけは養って来た。犯罪もまた詭弁なり――と僕はいいたいね。今度の事件は、二に一を加えて二になるという詭弁だよ」
警部の口の中で、海老《えび》がとび上がった。彼は兎《うさぎ》が亀《かめ》に追いつけないという、有名なギリシャ哲学者の説を思い出したのである。
「な、何です。その高等数学は。そりゃ、支那鞄《しなかばん》のことですか」
「それもそうだが、僕は第一に、人間のことをいっているんだよ。二人に一人を加えて、二人になったとしたら、その一人はいったい何者だろう」
「幽霊《ゆうれい》ですか」
「幽霊かも知れないね」
白川武彦は、微笑《びしよう》しながら言葉を続けた。
「むかし『幽霊西へ行く』という映画があった。イギリスの古城に住んでいる幽霊が、城といっしょにアメリカへ渡《わた》るという話だが、その中で、僕の吹《ふ》き出したのは、その城を買いとって、アメリカへ移築しようとしたブルジョアだ。彼は歓呼の声にこたえて、自動車で市中行進をする。彼の隣《となり》には誰《だれ》もいない。ただ幽霊《ゆうれい》の指定席という札《ふだ》がはってあった」
白川武彦は、微笑《びしよう》しながら、言葉をつづけた。
「幽霊は君といっしょに西へ来たんだよ」
警部は、とたんに大きく咳《せき》こんだ。
「じょ、冗談《じようだん》をおっしゃっちゃいけません」
「冗談じゃないよ。君は、いっしょに平塚から、君の自動車にのりこんだ人間を誰だと思ってるんだ」
「平塚警察の大宮とかいう刑事《けいじ》でした」
「平塚警察へ、電話をかけて聞いて見たまえ。そんな刑事がいるかどうか、いたとしたら、君といっしょに湯河原まで来たかどうかをたしかめたまえ」
警部は箸《はし》を投げ出して、そのまま階段をかけ上がった。三十分ほどして彼は帰って来た。その顔には、全然何の血の気もない。
「おりません……たしかに、そんな人物はおりません」
「そうだろうとも。それが第一の幽霊だよ。おそらくは、第二の支那鞄《しなかばん》に入っていた死体の主――平塚の殺人事件の犯人だね」
高島警部は、ベタリと畳《たたみ》に腰《こし》をおろした。
「そんな馬鹿《ばか》な……いくら何でも……」
「ちっとも馬鹿