幽霊西へ行く(日语原文)-第9章
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「案外、旦那《だんな》さんだったかも知れません。奥さんがおいでにならない時は、よく一人で、あの部屋で過ごしていらっしゃいました。あまりお気の毒で、見ていても、がまんが出来なくなったくらいです」
「ウン」
警部は胸の底を、チクリと刺《さ》されたような感じで、深くクッションに身を沈《しず》めた。
枺鼦@田門《さくらだもん》の警視庁へついたのは、九時すぎだった。庁舎の前に、車を待たすようにいいつけると、彼は早速、部下の刑事《けいじ》を八方に走らせた。
山本譲治は、八時ごろまで自宅におり、それから新宿のある酒場で、終電車近くまで飲んでいた――と申し立てた。必要もないとは思ったが、そのアリバイ、それから川島|玄斎《げんさい》のアリバイ、新映映画の撮影所《さつえいじよ》に荷物を撙螭滥肖稳讼唷I奖咀j治の家の眨麞栓D―定石《じようせき》的な捜査《そうさ》の段階である。
山本譲治の家の屑箱《くずばこ》の中からは、紙にくるんだ新しい、女の靴《くつ》が発見された。それはたしかに、その朝弥生がはいて家を出た靴だった。
この情報が入ったとき、彼はわが事成れりと思った。もしも、弥生が、自分で熱海へ行ったのなら、途中《とちゆう》で靴をぬぐわけなどない。もはや大魚は網《あみ》にかかった!
彼は胸をそらして、昂然《こうぜん》と大きな息を吐《は》き出した。もはやこの事件の解決は、時の問睿摔沥い胜い韦馈
だが、警部の描《えが》いた解決の夢《ゆめ》も、遂《つい》に崩《くず》れる時が来た。
正午近く、彼は村山|捜査《そうさ》一課長の部屋《へや》によび出されたのである。
村山課長は、廻転椅子《かいてんいす》に九十キロもの巨体《きよたい》を廻《まわ》し、象のような眼《め》を細くしていい出した。
「聞いたぜ」
熱海から電話がかかって来た。
「課長、ご安心下さい、犯人の名は分かっています」
「誰《だれ》だというんだ」
「山本譲治にちがいありません」
「ほう」
課長はグッと身をのり出して、
「理由を説明してくれたまえ」
高島警部は、自信満々と、自分の推理を語りつづけた。だが、意外なことには、課長の眼には、ありありと、失望と落胆《らくたん》の色があらわれて来たのである。
「摺钉沥筏Α
課長は、ドカリと椅子《いす》に身をそらせた。
「摺い蓼工盲疲
「摺Δ趣狻>悉猡Π肴铡岷¥摔毪伽坤盲俊
「何か起こったんですか」
「いま一つ、死体が発見されたんだよ。顔を滅茶《めちや》滅茶に、叩《たた》きつぶされた男の死体が……」
警部は一瞬《いつしゆん》よろめいた。だが、彼は必死の気力をふりしぼってたずねた。
「その……死体はどこにあったんです」
「いま一つの支那鞄《しなかばん》の中にだよ」
「それじゃあ、それも枺─椤
「そうじゃあるまい。死亡推定時間は、一昨日の夜の二時だ」
警部は思わず、椅子《いす》に腰《こし》をおとさずにはいられなかった。
「私は……私は……間摺钉蓼沥筏盲皮い郡瑜Δ扦工汀¥浃盲绚辍ⅳ长螝⑷摔稀岷¥切肖铯欷郡螭扦工汀饯欷袱悚ⅰⅳⅳ螙|京から送られた、二つの鞄には、何が入っていたんでしょう」
「一つには、たしかに衣裳《いしよう》や小道具や、便仱筏苿e荘《べつそう》に撙值谰撙毪盲皮い郡椁筏ぁ窑樽约矣密嚖扦趣嗓堡糠饯馈¥坤ⅳ猡σ护膜沃庆帳摔虾韦毪盲皮い郡证椁胜い螭坤琛
「課長」
警部は突然《とつぜん》、とび上がった。
「私をもう一度、熱海へやって下さいませんか。今度こそ、今度こそ、私は犯人の首をとらずには帰りません」
「高島君、焦《あせ》るなよ。あんまり思い詰《つ》めるなよ」
課長は、同情するように言葉をつづけた。
「君が功名心に囚《とら》われていたとはいわないが……君はあんまり、事件をホ啷哎楗Ε螗嗓顺证沥长猡Δ瓤激à工皮い郡螭袱悚胜い9γ险l《だれ》が立ててもかまわないんだ……もう一度、撸Г证膜猡辘切肖盲评搐郡蓼ā¥饯欷椤⒗螝ⅳ丹欷皮い磕肖坤ⅳ长欷咸澶翁貜铡钉趣沥瑜Α筏⑵綁Vで強盗《ごうとう》殺人を働いた、後藤という青年にそっくりなんだ……天野家との関係は全然考えられないが、これだけは頭に入れておきたまえ」
6
高島警部が、熱海へ帰りついたのは、夕方の六時すぎのことである。待ちかまえていた棧垦aは、青山|荘《そう》の玄関《げんかん》まで飛び出して来た。
「いかがでした。枺─畏饯稀
表門から入ってすぐの車庫へ、金田青年が車をしまっているのを、横目で見ながら、彼はたずねた。
「何だって、てんで話になりません。私の見込《みこ》み摺钉沥筏い扦筏俊≤姢谓⒈蛘Zらずの心境です」
「とにかく中へ入って、よくご相談をいたしましょう。われわれだって、事の意外に驚《おどろ》いてしまった始末です。決して、あなたの責任じゃありません」
二人は肩《かた》をならべて、応接室に入った。
熱海、枺﹣I方の情報が交換《こうかん》されて、初めてこの事件の全貌《ぜんぼう》は、明るみに浮かび上がって来たのである。
第一に、弥生の死亡時間は、解剖《かいぼう》によってはっきり証明された。一昨日の夜、七時すぎから九時までの間、おそらくは八時前後とのことである。第二には、各容疑者のアリバイであるが、山本譲治、川島玄斎の二人は、八時以後のアリバイは完全に成立した。日高晋、松前明の二人も、ほぼ確実としか思われなかった。天野憲太郎は、自分の部屋《へや》にこもっていたが、はっきりしたことは、誰《だれ》にも分かっていない。
第三には、七時に撮影所《さつえいじよ》に持ちこまれた、支那鞄《しなかばん》の内容であるが、これについては、棧垦aが、一つ重大な発見をしていた。
彼は苦笑していい出したのである。
「高島さん、これが幽霊《ゆうれい》の入浴の正体だったんですよ。あの幽霊は、体を洗おうと思って温泉の湯槽《ゆぶね》に流していたんじゃありません。支那鞄の目方を軽くしていたんです」
「何ですって!」
「湯槽の底に、かすかに白い粉が残っていました。ふしぎに思って眨伽埔姢郡椤ⅳ饯欷蠅c――溶けきれなかった、食塩の結晶だったんですよ」
「塩が! 支那鞄の中に……」
「そうなんですよ。犯人は、枺─欠感肖肖铯欷俊ⅳ纫姢护堡毪郡幛恕⒆畛酩閴cを支那鞄につめて、誰《だれ》かに撮影所《さつえいじよ》へとどけさせたんです……」
高島警部は、かるい目まいに襲《おそ》われた。それでは、自分が枺─丐堡膜堡毪长趣稀⒊酩幛椤⒎溉摔我娡浮钉撙工筏筏皮い郡长趣坤盲郡韦W苑证悉饯谓顣搜丐盲菩袆婴筏皮い郡坤堡胜韦
「それじゃあどうして、あの哕炇证稀⒆畛酩戊帳颏趣嗓堡繒r、二つめの荷物がとどくことを知っていたんでしょう」
「被害者《ひがいしや》が、犯人に何かいいふくめられていたんじゃありませんか。君の名前で、あとで一つ、荷物がとどくからね――と。そのままの言葉を、哕炇证藖护à郡坤堡袱悚ⅳ辘蓼护螭
「なるほど。それでは鞄の件は」
「山本譲治に、嫌疑《けんぎ》をかけるために、共犯者に支那鞄を撙肖护霑r、彼の家の屑箱《くずばこ》に、同じ靴《くつ》をほうりこましたら……私も、一度あの撮影所《さつえいじよ》のそばまで行ったことがありますが、あのあたりは、まるで人通りもない、畑のまん中なんですからね」
「そうかも知れません。あのあたりなら、ちょっとやそっとのことをしても、見とがめられる気づかいもありますまい……」
しばらく考えこんでいた警部は、燃えるような目をあげてたずねた。
「それで、殺されていた男というのは」
「いや、われわれも、これにはびっくりしましたよ。まさかあの部屋《へや》に、二つも死体があるとは思っていませんでしたからね。それにあちらの箱の方は、目方も大体あっていたし、哕炇证狻⒆苑证芜んだ方はこちらですというので、手をつけずにほうっておきました……ずいぶん迂闊《うかつ》な話ですが、今朝になって、松前君の方から、どうしても今日中に撮影を上げなければ封切《ふうぎ》りに間にあわん。吹《ふ》きかえでごまかすから、衣裳《いしよう》だけでも貸してくれ、というので、箱をあけたらあの始末――われわれも、この時は腰《こし》がぬけそうになりましたよ。衣裳や小道具は、廊下《ろうか》の押《お》し入れに入れてありました。一つには、やっぱり中身があったんです」
「私も、実はあの平塚の殺人事件のことは、こちらへ来る途中《とちゆう》に、自動車の中で聞いたんです。しかし、そんな事件が、今度のこの事件に、これほどからんで来るなどとは、夢《ゆめ》にも思っていませんでした。それで殺された男というのは、その事件の犯人にちがいないんですね」
「ぜったいに、間摺钉蓼沥筏いⅳ辘蓼护蟆n啢悉幛沥悚沥悚恕⑦怠钉郡俊筏膜证丹欷皮い蓼筏郡⑼螭未糖唷钉い欷氦摺筏浜韦恰⒅该峙渲肖文肖趣工挨朔证辘蓼筏俊
「それで、その男は、この家なり、容疑者やお手伝いなんかと、何か関係を持っているんじゃありませんか」
「何の関係も発見出来ません。いまのところ、絶対にないといえるのです」
「それで、その男はどこに住んでいるのですか」
「もちろん平塚ですとも」
「私は、湯河原と聞きましたが」
「それは、何かのお間摺钉蓼沥筏い扦筏绀Α
「それで、この男を殺した犯人は、弥生さんを殺したのと、同一犯人なんですね」
「としか思えません。弥生さんの方は、撲《なぐ》って昏倒《こんとう》させてから絞殺《こうさつ》した――こちらは、絞殺してから、顔をたたき潰《つぶ》した――これだけの摺钉沥筏い扦工
高島警部は、ただ沈黙《ちんもく》をつづけるほかにはなかった。
上杉弥生が、熱海にあらわれたのを目撃《もくげき》した人間は一人もない。それなのに、弥生が殺害されたのは、熱海であったことに摺钉沥筏い悉胜ぁ¥饯筏迫菀烧撙我蝗艘蝗摔摔稀⒋_固としたアリバイが立っている……
そこへまた、突如《とつじよ》として投げ出された、第二の死体……
最初は簡単に解決出来ると思っていた、この事件は、いまや底知れぬ泥沼《どろぬま》のような形相《ぎようそう》を呈《てい》して来たのだ。
警部は、自分の五官を信ずることも出来なくなった。あの時聞こえたかすかな声は、人間の口から出た声でなく、幽霊《ゆうれい》の声、上杉弥生の亡霊《ぼうれい》の声かも知れぬと思うのであった。
六時に、山本譲治の家を去ってから、弥生はどうして熱海にあらわれたのだろう。
新映|撮影所《さつえいじよ》は、小田急のS駅にある。急げば、小田原経由で、八時すぎに熱海へあらわれることも、不可能とはいえない。だが、誰《だれ》一人、その姿を目撃した者はないのだ。
ふたたび、松前|監督《かんとく》への取り眨伽_始された。
「分かりません。私には何も分かりません、アリバイならば、あの時申し上げた通りです。第一、私にあの人を殺さねばならない動機がどこにあるのです。あの人との関係があったなどという噂《うわさ》は、全くとんでもないゴシップです。たしかに、あの人の芸熱心は大変なものでした……はたから見たら、そんな铡猡蚱黏长工长趣狻Qして無理とは思えません。あの人ほど、男の気持ちのありとあらゆる変化を研究し、それに応ずる自分の演技の変化を、底の底まで、きわめ尽《つ》くそうとしていた人はありません……あの人にとって、あらゆる男は、実験材料にしかすぎなかったのです。しかし、私のような監督《かんとく》の立場からいえば、あの人は、私の芸術|意慾《いよく》の実現には、この上もない実験材料ともなるのです……私は完全に、お互《たが》いの立場を諒解《りようかい》したつもりです。それにまた、見ず知らずの強盗《ごうとう》殺人犯人まで、殺さねばならない理由がどこにあるのです……」
条理整然とした言葉であった。
高島警部も、これ以上の証拠《しようこ》が上がらないかぎり、彼の線は打ち切らざるを得なかった。
これに反して、強面《こわもて》に出たのは、日高晋であった。せっかくの金づるに離《はな》れてしまって、いくらか自暴|自棄《じき》になっていたのだろうか。彼は、猛然《もうぜん》と警部に食ってかかった。
「あんな女の一人や二人、殺されたって、何でそんなにさわぐんです」
「少しは言葉をつつしみたまえ」
「これは失礼……なるほど、あなたにとっては飯の種でしたなあ。いや、私がそう申しあげたのは、最近、あの女の素行《そこう》に、眼《め》にあまるものがあったからです」
「それと、君と何の関係があるんだ」
「マネ弗悌‘として、私もだまって見ているわけには行きませんやね。ああして生活が荒《あ》れ出しちゃあ、芸だって、荒《すさ》んでくるのは当然ですよ」
「すると、恋愛《れんあい》関係――のことかね」
「もちろんそうです。松前君だって、あの金田という哕炇证坤盲皮ⅳ浃筏い猡螭扦工琛I奖揪趣稀ⅳ猡沥恧螭いΔ思啊钉琛筏肖氦扦工汀
「でも、山本君も、松前君も、その点では、口をそろえて否定していたよ。芸術のための研究。プラトニック?ラヴだといっていたんだよ」
日高晋は、唇《くちびる》の端《はし》を歪《ゆが》めて笑った。
「警部さん。あなたは、あの山本君という人間を知らないから、そんなことをおっしゃるんですよ。あんな顔で、あれは稀代《きたい》の色……いや失礼、ドンファンというものは、顔が女に好かれるように出来てなくっちゃ、こいつは話になりませんや」
「人の中傷は聞きたくないね。それとも、君が、彼を犯人だと指摘するような、確証を握《にぎ》っていれば、これは別だが……」
「足どりを見たって分かるじゃありません